Last Updated on 2023-04-13 by matsuyama
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以下、ネタバレを含みますので「それってパクリじゃないですか?」第1回をご覧でない方はドラマ観覧後にお読みいただくことをおすすめします。
知財業界の念願だったのではないでしょうか?
弁理士が登場する知財のドラマ!日本テレビ系列で「それってパクリじゃないですか?」がとうとう始まりました。
主人公は多分二人、飲料メーカーの開発員の若い女性と親会社の弁理士の男。これらの二人がこの飲料メーカーで新たに立ち上げた知的財産部で奮闘する物語です。
第1回は、二人の出会いを含め、登場人物を多数登場させるため、メインのお話が雑になるかと思いきや、どうしてどうしてすごく良くできていたと思います。
もちろん、現実には「そんなんない」っていうところはありますけど、ドラマにするには仕方ない部分だし、100%無理な設定でもないのでOKでしょう!
ね?
第1回では、せっかく開発した新作のボトルが、他社に先に特許を取られてしまい、情報漏えいを疑われた女性主人公が奮闘する展開でした。
今回は、自社技術が他社に漏れて特許を取られるという事例で、自社技術を特許の形で回復させるために「冒認出願」の主張をしようというものでした。
冒認出願というためには、情報を開示した(盗まれたでもいいのですが、あまりに立証が困難です)と言わないといけないので、ここで主人公(女性)の葛藤があるのですね。
いやぁ、きちんとドラマになっていました。
さて、そんなドラマの知財面での「解説ポイント」と「誤解しないでポイント」があります。
<解説ポイント①> 発明は捉え方次第でいくつにも化ける!
新作ボトルは「キラキラボトル」と言われていました。確かに見た目キラキラしていました。
新しいコーティング技術の開発により、この「キラキラボトル」が出来上がっているのです。
でも女性主人公は、このコーティングを触って「キュルン」と言っています。
物語の終盤でこの「キラキラ」と「キュルン」との関係が明らかになるのですが、ここに発明が2つ隠されているのです。
ちょっとまってくださいね。
「コーティングは一つですよ、発明がいくつもないでしょ」って思いますよね。
でも発明はいくつも入っている可能性があるのです。
発明は「機能」ごとに考えるべきものです。
このボトルの機能は、「キラキラ」と「キュルン」です。
「キラキラ」を達成しているのはコーティング、「キュルン」を達成しているのもコーティング、ですが……それぞれの機能を発揮する内容が異なります。
「キラキラ」も「キュルン」も、コーティングの主成分と顔料などのキラキラ成分とに何をどのような配合比で用いるか、がキモになるのですが、「キラキラ」を達成する部分と「キュルン」を達成する部分が異なるという見方もできるのです。
「発明は、機能ごとに考えよう!」覚えてくださいね。
ちなみに、この「キラキラ」と「キュルン」を別々に考えるのではなく、合わせて考えるとトレードオフを両立すると考える事もできます。「キラキラ」させるとざらつくのが普通で、「キュルン」とさせるためには顔料や微粒子を入れないほうがいいですよね。こういうのをトレードオフといいますが、トレード・オフの関係にある機能を両立させるのは技術的にかなり難しいのです。したがって、こういう両立型の機能を発揮する発明は、非常に特許になりやすいです。
<解説ポイント②> 自社技術は発表前に必ず知財化の検討を!
今回のお話では、社長が喋ってしまい、他社に特許を取られていましました。
他社に特許を取られるかどうかは置いておいて、現物を他人に見せてしまうと、新規性という特許を取得するための必須の要件が失われてしまいます(今回はコーディングなので、ボトル見せても発明の内容を開示したとは言えない可能性が高いですけどね)。
これは大問題です。
知的財産を権利化するかどうかは、経営判断です。
しかし、たとえ社長であっても、会社が開発した技術を会社の正当な意思決定機関において決済を得る前に公表するのは許されません。
知的財産権(特許権、実用新案権、意匠権)は、独占排他権というとてもとても強い道具です
権利化手続前の公表は、ビジネスの道具である知的財産権の取得可能性を自ら放棄することになります。
当然、これではビジネスの世界で戦えません。
もちろん、知的財産権の取得には費用もかかりますし、むしろ特許を取得しない方がメリットのある場合もあるでしょう(私は費用対効果以外の取得しない考えには否定的ですが……)。
しかし、きちんと協議して意思決定する前に、権利化を放棄するのは罪深い行為なのです。
<誤解しないで!①> 冒認出願はするのも立証も実際には困難(技術ってそんなに簡単に盗めない)
新作ボトルは「キラキラボトル」と言われていました。確かに見た目キラキラしていました。
技術的にもこのキラキラがポイントで多分顔料や微細なビースをコーティングに混ぜているのでしょうね、ガラスボトルにコーティングしている点が特徴であるようにセリフが作られていました。
そして、このボトルをペラペラ喋っちゃったのは、なんと社長!だめだって、みんなひくから。
でも、実際には、こんなボトルを見せて小一時間内容を話したくらいでは、なかなか特許出願の書類を仕上げるまでは行きません。
正確には、物によります。
簡単な構造物なら可能でしょうけど、コーティングとなると成分の確定、成分比(組成割合)の確定、マトリクスと顔料などとの比率等、かなりの調整が必要になるので、立ち話でなんとかなるレベルではないです。
<誤解しないで!②> あんなに簡単に両者納得しない(交渉は狐と狸の化かし合い)
この飲料メーカーの方々は、社長が相手先の会社の社員とボトルを出して話をしている動画を見て、冒認出願を確信し、開発部長さんが相手先の会社の知財リーダーと話をします。
その動画を見て、この知財リーダーは、あっさりと認めて、特許権の無償譲渡を申し出ます。
ドラマとしては、これで100点です。スカッとしましたね。
しかし、こんなことは実際にはありません。
相手方は絶対に認めません。
徹底的に闘います。
特許出願書類を盗んで出したのであれば、全く同じ発明が2つ存在することはありえますが、通常、現物を見、データの一部を入手した程度では全く同じ発明として文章化することはほぼ(というか100%)不可能です。
なので、相手側からしても争う余地は多々ありますから、絶対に冒認出願の相手側は、このドラマのように認めてくれたりはしません。
<誤解しないで!③> 嘘をつかせようとする弁理士
1点だけこれはどうかというところがありました。
それは、男性主人公の弁理士が、偽証を示唆する場面です。
女性主人公は頑なに「自分は話していない」と主張し、その裏も取れたのに、男性主人公が「冒認出願しか……」と言い張り、そのためには女性主人公が話したと主張するしかないと言うシーンが有りました。
これはありえません。
虚偽の主張は絶対ダメです。弁理士も法律家ですから、倫理上だめです。
自分に都合のいい事実を抜き出すことはやりがちですが、嘘はだめですし、こんなすぐバレる嘘をつかせようとする弁理士さんではたかがしれていて、まあ、仕事できない人としか言えないです。
ただ、現実にありえないかというと、法務や知財部で言い出すというよりも、経営者が言い出して、法務や知財部で理論武装することはありえるかもしれないですね、私は見たことないですが……
でも、このシーンが有ったからその後のシーンが生きていたと思うので、ドラマとしては成功なのでしょう。
こんな嘘をつかせようとする弁理士さんいません(と思います、いや信じます)ので、誤解のないように!
いろいろ書きましたが、地味でエンタメ性がないと思っていた知財の世界をしっかりエンタメにしているところは、脚本家の先生、めっちゃすごいと思います。第2回も楽しみですね。
ではでは