「それってパクリじゃないですか?」第2回 解説

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Last Updated on 2023-04-20 by matsuyama

※以下、ネタバレを含みますので「それってパクリじゃないですか?」第2回をご覧でない方はドラマ観覧後にお読みいただくことをおすすめします。

弁理士が登場する知財のドラマ!日本テレビ系列で「それってパクリじゃないですか?」第2回、とても面白くできていましたね。

商標権って、実はかなり身近なのにとても分かりにくい権利なのです。それをうまーく料理して面白いドラマに仕上げられていました。

第2回では、主力商品の「緑のお茶屋さん」の商品パッケージそっくりの商品「緑のオチアイさん」というお菓子が販売されていることが分かります。その「緑のオチアイさん」を作っている会社に主人公の女性が文句を言いに行くけれど、情にほだされ、どうしようか迷っているが、主人公の男性が最適解を導き出して一件落着するというものでした。

いやぁ、今回も女性主人公の迷い(相手方への思い入れと自分たちの仕事のプライドの気付き)を描くことできちんとドラマになっていました。

さて、そんなドラマの知財面での解説ポイント誤解しないでポイントを説明したいと思います。

目次

・<解説ポイント①>本当のロジックは複雑なり

今回、主人公たちの会社側のロジックは次の通りでした。

「①貴社の“緑のオチアイさん”は、当社の商標権を侵害している。従って、商標権侵害に基き当該商標の使用差し止めと損害賠償を請求する。②更に、貴社の“緑のオチアイさん”の商標権は不正使用により取り消すべく手続きをとる」

①について:これ、実は少しおかしいです。

前提としてこの製菓会社も“緑のオチアイさん”について商標権を取得している、と説明されていました。

商標権を取得しているということは、他の商標権を取得した商標に類似していないということなのです。他の商標に類似している場合には商標権を取得できないからです。

ちなみに、商標権の類似とは、商標が似ていないということなのですが、この似ている・似ていないを考える上で、商標をマークと指定(使用する対象という意味)商品・役務(サービス)に分けて考える必要があります。

“緑のお茶屋さん”が商標権を取得していても、この商標はマークが“緑のお茶屋さん”、指定商品が飲料です。

それに対して、製菓会社の方は、マークが“緑のオチアイさん”で、これは似ているかもしれません。音が2音ズレて、外観も漢字とカタカナで異なりますので、私見としては非類似だと思いますが、類似と言う判断もあり得ます。しかし、この指定商品は菓子だと思いますし、実際に使用しているのは菓子です。よって、商品が非類似ですから、結果、商標が非類似になります。

したがって、商標権の侵害がいきなり成り立つことはないというのが普通の考え方になると思います

ちなみに、ドラマでは似ているアピールのために、パッケージを似せて作っていましたが、商標権をどう取得しているのかというと、話の流れからは純粋な文字商標“”で取得しているのではないかと考えて以上のように解説しています。

②について:ほんとにその通りです。

商標では、不正使用した場合取り消されるという不正使用取り消し審判という制度があります。

商標法51条に「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」という規定があります。

読みにくい!本当に読みにくい‼ なんで知財系の法律はこんなに読みにくいのだぁぁあああ!!!

気を取り直して、これはどういうことを言っているのかと言うと、要は「商標権を有していても、登録商標に類似する商標を使用して他人売っている商品とゴッチャになるようなことをわざとした場合には取り消すよ!」ということを言っています。

今回の場合には“緑のオチアイさん”の登録商標があっても、その字体やロゴの作り方で「類似する商標」を使用していると認められて、それで“緑のお茶屋さん”と混同する表示になっていた場合には、“緑のオチアイさん”の商標は取り消される可能性がある、ということになります。

正確には、今回のケースでは次のようなロジックで言うべきかなと思います。

「②の不正使用で取り消されるよ。そうすると貴社には使用の正当性の根拠である商標権と言う権利がなくなるよ。現在の“緑のお茶屋さん”の著名度からすると貴社の使用形態では当社の商標権の侵害となる可能性が高いよ」

でも、ドラマとしては、あのセリフの方がいいです分かりやすいですからね。

・<解説ポイント②>ブランドを守るのは商標権だけではない。不正競争防止法、更には意匠法も活用しよう。

今回のお話でも不正競争防止法も活用すれば……という話は出ていました。

不正競争防止法では、商品等表示という規定があり、他人の有名な商標やパッケージデザインなどをパクッてはダメ、と言っています。

今回のケースも、なにも商標の問題を出さなくても、規定上はこの商品等表示の規定を用いて“緑のオチアイさん”の使用差し止めが可能ではないかと言えます。

有名な事件としては、まだ商標がサービスを保護対象にしていなかった頃の事件としてスナックシャネル事件というのがあります。スナックは飲食の提供というサービスなので、昔は商標権が取れませんでしたから、商標権の侵害として訴えることができなかったのです。

この事件は、場末(失礼ですが、分かりやすくするためとお許しください)のスナックで「シャネル」と言う店がありました。それを察知したシャネル社が「シャネル」の使用の差し止めを請求した事件です。

もちろん本家のシャネル社が勝ちました。

要は、他人が使用を継続することで得た信用にただ乗りするのは競争社会の敵だということです。至極当然ですね。

ただ、なかなか立証するのは大変ですから、裁判まで行くのは、今回のドラマでも描かれていましたが、モグラ叩きのようになる前に小さい芽をつぶして、ぞろぞろ出てくるのをつぶそうという気概がなければできないでしょうね。

それと意外かもですが、意匠(デザイン)もブランド保護に有効です。

このドラマでも女性主人公の友人がイラスト・ロゴを考案してグッズ化して、結構売れていたら、他社から商標権侵害で警告をもらった、という事案が描かれていました。

友人の方が、この他社の商標出願よりも先に使用していたから、この他社の商標を無効にできるかも……なんて描写がありましたが、現実には無効にするのはハードルが高いですがこのケースではイラスト・ロゴだという点は有利だと言えます。イラストになっていることで著作権の問題も絡めて主張することができるからです。

それに、イラスト・ロゴを付したグッズで意匠権を取得する、それも配置や配色を変えることで繰り返し同じグッズに同じイラスト・ロゴをつけた意匠を取得できる可能性もありますから、意匠権によってブランド力を向上させることも可能です。

よくマーケティングでプロモーションをメディアミックで行うことがありますが、同様に知財での保護も知財ミックスで行うべきなのです。

・<誤解しないで>相手方はあんなにいい人な訳がない(相手方はもっと違う落としどころを探る……と思います)

今回の最適解の提案はなかなか良かったと思います。ドラマを見ている限りでは思いつきませんでした。確かにウインウインと言えるかもです。

しかし、相手方から見るとどうかと言うと、この最適解自体はOKでしょうけど、“緑のオチアイさん”も使用できるはずですから、使用差し止めの全面受け入れを受諾することはないと思います。あのパッケージデザインが駄目なだけで登録した商標を使用(“緑のオチアイさん”をお菓子に使用)する分には問題ないですからね。

まあ、ここはあの最適解の受け入れの方が、利益が高いかどうかの価値判断かもしれませんし、不正使用により取り消される可能性がありますので、その点の配慮も必要なのでしょうね。

しかし、私見としては、自社ブランドの浸透を図り、ビジネスを自立して行えるようにする意味でも登録商標の使用は譲らない方がいいと思います。

そうでないと強い企業の属企業になってしまいます。ソニーの盛田さんは、アメリカでトランジスタラジオを売り歩いたときに絶対にこの点自社ブランド名をつけることは譲らなかったそうです。

<あとがき>

ドラマとしては、相手の企業がほんとにいい人たちで、そのいい人たちにとってもいい感じの結末で「良かったねぇ」なんて言いながら終わったのですが……

これ、体よく相手の企業を自分たちの支配下においているので、冷静に考えてみると「うまくはめたな」と思ってしまいました。そんな自分を冷静に眺めてつくづく「病んでる」と思う今日このごろ。

ではでは

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この記事を書いた人

特許事務所での実務を活かして、知的財産にまつわるあれこれをご紹介していきます。

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