「それってパクリじゃないですか?」第3回 解説

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Last Updated on 2023-04-27 by matsuyama

※以下、ネタバレを含みますので「それってパクリじゃないですか?」第3回をご覧でない方はドラマ観覧後にお読みいただくことをおすすめします。また、法律の説明は、かなり簡略化してわかりやすくしています。その点、何卒ご理解ください。

弁理士が登場する知財のドラマ!日本テレビ系列で「それってパクリじゃないですか?」第3回、いかがでしたか?

今回はちょっと難しい題材だったので知財とかかわりのない人には判りにくかったのかな? と思いました。

今回の題材は「特許権の侵害」です。

新製品について「既存特許権の侵害がないか」を調べるという事件と、別の商品をプレゼンしようとしたところ、同じ製法の既存の特許権が存在することが分かって、侵害を回避したものを作らなくてはいけなくなった事件とを軸に話が進められていました。

いわゆる「侵害予防調査」と「侵害回避施策」ですが、これらについて解説して見ましょう。

<解説ポイント①> 侵害予防調査は本当に難しい‼

特許権の侵害って法律的な定義はなんだかなぁって感じです。

特許権の侵害とは、「正当理由又は権原なき第3者が業として特許発明の実施を行うこと」を言います。

正当理由がある場合とは、法律上実施してもいい場合が規定されているのでそれに該当する場合です。

権原(これで合っています)ってライセンスがあること等です。

業としてとはビジネスとして行っているということです。

特許発明の実施とは、特許になった発明にかかる物を作って売る、または発明にかかる方法を使用することです。

侵害予防調査のメインは、このうち「特許発明の実施」に該当するかどうかを調査することになります。

すなわち、自社の実施品が他人の特許発明の実施になるかどうかを調査することになります。

したがって、自社の実施品が物なら、その物が他人の特許発明の物の権利の範囲に属するか否かを、自社の実施品の製造方法が他人の特許発明の方法の権利範囲に属するか否かを、判断することになります。

使用方法が問題になることもあります。

ということは、本当なら実施品をきちんと特定しないといけませんし、実施品の製造方法を特定しないといけません

ドラマではいきなり調査を開始していましたし、なんだか機能を示す文言で調査をしていましたが、機能を示す文言で調査をしていては何万件もヒットして何年もかかってしまいます。

発明は機能ごとに考える必要があります(第1回の解説参照)。が、侵害可能性を考えるときはもっと細かいところを考える必要があります。

特許を取得するときに、機能そのものを示す文言のみ、例えば「変色する飲料(茶)」、で権利を取得できればいいのですが、現実にはどうやって変色するのか、成分や配合比等を規定しないと特許権の取得ができません

「機能」のみで特許を取れればすごく広くていい権利になり得ますが、100%に近い確率でそれでは特許を取れません。だって、目的を規定しているに過ぎないものを特許にすることになるからです。例えば、「初期膵臓がんを瞬時に判定する方法」や「絶対に当たる競馬予想法」なんてものが該当します。単に目的が規定されているに過ぎないですよね。

なので、実施品そのものをきちんと文言化して、その文言に基いて調査する必要があります。

このとき絶対に理解していないといけないのは、上位概念、下位概念です。上位概念や下位概念って聞きなれないと思います。

例えば、野菜‐根菜‐大根を例にすると、野菜は上位概念、根菜は中位概念、大根は下位概念になります。ベン図にするとわかりやすいですかね。下の図のようになります。

実施品は、下位概念になりますので、中位概念や上位概念の言葉で表現されたものがあるのかどうか、必死になって探すことになります。

慣れた方だと、コツをつかんでいるので早く終わりますが、慣れないとかなり時間がかかるでしょうね。

それに穴だらけで使いものにならないです。

そんなに簡単にできるようにはならないです。

ドラマでは、女性主人公に何も言わずに調査をさせて、報告書は男性主人公(弁理士)が作って上司に出していました。

これは言語道断ですが、知財に配属されたばかりの人に任される仕事ではないです。

今後はAIの活用によりかなりの部分をコンピュータに任せることが可能になると思いますが、それでも最後の部分は、今のところ人が経験に基づいて判断しないといけませんし、それは結構な修行を積む必要があります。

<解説ポイント②> 侵害の回避は一見簡単で実は困難‼

ドラマでは女性主人公の先輩が開発した商品が他社特許を侵害していることが分かり、その侵害回避品を開発しようとしていました。

特許権が「低温スチーム処理して保存された野菜、果物、及び乳成分とを含む飲料の製造方法」となっていたと思います。

この乳成分をライスミルクに変更するので侵害を回避できると言っていました。

なるほど、ライスミルクは植物由来のコロイドになるので乳成分(動物性のコロイド)とは異なりますから、侵害が回避されていると言えそうです。

実際ドラマでは、男性主人公が「それなら大丈夫です」と即答していました。

ふむふむ。

うん。

ん?

実際には「大丈夫」とは言えないです。

というのは「均等論」という議論があります。

特許権は特許出願された書類に基いて付与されます。

審査を経ますので出願から権利化まで5年程度かかるのは普通のことです。

ということは、侵害の問題が表出するのは出願から5年以上たってからと言うのが普通なのです。

5年もたてば結構技術水準も変わります。

だから一見実施品が特許権の権利範囲外のように見えて、実は特許権の権利範囲内として扱った方がいい場合があり得ます。

このような場合に侵害と言うための法理論が「均等論」です。

文言上、特許権の権利範囲外であっても、実施品と特許権とが均等だと認められる場合には侵害として扱うというものになります。

詳細な規範は割愛しますが、実施品と特許発明との対比において、発明の中心でない部分が問題になっていて、同じ効果が得られるのであれば、実施品と特許発明とは「均等」と考えて侵害に該当するとしよう、という感じです。

このドラマでは、低温スチーム処理していることが発明の中心だと思われますので。乳成分か植物性成分かは、発明の中心ではないと認定できます。

また、乳成分であろうと植物性成分であろうと同じ効果、甘くておいしいという効果が得られることは変わりないように思われます。

よって、「均等論からライスミルクを用いても侵害の可能性は高いのではないかと判断して、より深い検討を行う」のが、本来の姿です。

あ、誤解しないでくださいね。あくまでも均等と判断されて侵害になる可能性があるから、より詳細に検討するということです。もしかしたら別の作用効果、例えば乳製品アレルギーに対応できる、というのが大きくて、同じ作用効果とは言えないから均等ではなく侵害ではない、と認定できるかもしれません。

いずれにしても、即答できるような代物ではないということです。

まあ、ドラマとしては、「侵害ではない」「やったぁ」の方が面白いのでしょうけど……

そもそも、ライスミルクを用いることで普通に美味しくなるのであれば、低温スチームで処理することにこだわる必要性が見えないです。なのでドラマとしても破綻していると思ってしまいました。

それに男性主人公に無理やり謎をかぶせて……、伏線やアンチテーゼはさり気なく見る側に刷り込むからこそ面白いと感じると思うのです。こういうむりやり作成者の意図の方向に導こうとするのは、日本のドラマの面白くない要素がてんこ盛りになってきた感じ……です。

<誤解しないで> 弁理士ってパソコンばかり見ていませんよ。

男性主人公(弁理士)はパソコン見ているシーンばかり出てきます。

セリフも冷徹な感じばかりです。

弁理士ってこんな感じの人なの? って思われそうですが、実際は弁理士のみなさんもっと無邪気だと思います。

基本、特許メインの弁理士さんは、知的好奇心旺盛で、特に技術おたくのような人が多いので、発明品は興味津々にいじりまくるし、街で携わっている商品(他社品含め)見ると確認したりします。

私も昔女性用の生理用品を書いていたときは、スーパーで手に取ってしげしげ見てしまいました。もう殆ど変態ですけど、それくらい現物主義の人が多いです。

意匠・商標メインの弁理士さんは流行りものに敏感な人が多い印象があります。雑誌読み漁るとか。

とにかくアンテナが広い人が多い印象です。

実際、文書書く、読む、調べる時間が長いからパソコンには向かっていますけど、もっとアクティブですよ~‼

ではでは

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