Last Updated on 2024-12-02 by matsuyama
こんにちは!
意匠の裁判例で有名なものに、「学習机事件」があります。
いわゆる利用侵害についての事件です。
今回は、この事件について考えてみたいと思います。
学習机事件では、「利用関係があるから侵害であり、差し止めできる」という判断がなされたことで試験においても重要な論点としてよく答案練習で見かけた(2024年時点ではチェックしていないので)論点です。
答案練習の問題としては、部品と完成品との関係において問う問題をよく見かけます。
部品と完成品とは非類似物品なので侵害とは言えないですよね。
しかし、完成品を実施すると、必ず部品を利用しているので、部品の意匠権の侵害と言える、と考えるわけです。
この考えに基づいて作られた問題がよく出題されていました。
このような使い方は、間違っていないですし、理解していないといけない部分です。
部品と完成品とで、意匠の利用が成立している場合も当然あります。
しかし、学習机事件は、権利品も侵害品もともに机で同一物品だが、形状が非類似の場合です。
だとすると、両者非類似なので権利侵害の問題は生じないと言えそうです。
しかし、後願意匠が先願意匠を利用するので、両者に利用関係が成立するケースです。
そのため、後願意匠の実施は先願意匠の意匠権の侵害であると言っています。
要は、部品と完成品との関係が利用関係にあるというのは正確ではないということ、利用関係をしっかり理解することの重要性を問いたいのです。
部品と完成品との関係の場合、利用関係にある場合もあるでしょうが、利用関係(意匠の利用関係です。完成品の意匠は当該物品がなくても成立する場合があり得ます)が成立しない場合もあり得ます。
要は、部品と完成品との場合は利用関係の必要条件ではないということです。
これをしっかりと理解しておかないともっとも部品と完成品との関係を見て、なんでもかんでも利用関係で処理しようとすると泥舟の可能性があります。
もっとも部品と完成品との場合であれば、完成品を制作する際に部品を製造し使用することになるので、当該部品の登録意匠の実施に該当します。よって、特に利用関係を論じるまでもなく侵害であると言えば足りるとも言えます。
「意匠制度120年の歩み」特許庁編、第2部第5章 デザインの新たな展開 より
ここで、当該判決の事案を見ると、単なる机と書架付き机との関係ですので、単なる部品と完成品との関係にない場合だったのです。
このように、書架付き机の一部としての机部分について製造・販売などの登録意匠の実施であるといえない場合になんとか侵害であることの理論構成をしようとしたものだと思います。
だとすると、当該判決の趣旨を鑑みれば、単なる部品と完成品の事案であればわざわざ利用関係を持ち出す必要はないといえます。
もし本試験で出るとすれば、部品のようにそれ自体で登録意匠の実施とは言えない事案で出るのかなと思います。
私は、部品と完成品との形で問題が出された場合には、以下の検討を答案構成の段階で行い、書くべき優先順位を決めるべきだと思いますが、いかがでしょうか?
・部品は取引者に、通常視認されるか?→Noなら部品の意匠の実施と言えないのではないか?
→Yesなら以下の項目の検討
・部品の意匠は、完成品の意匠に利用されているか?(意匠の要部に組み込まれているか)→Yesなら利用関係
→Noなら部品と完成品の意匠として処理
ではでは