Last Updated on 2023-05-11 by matsuyama
※以下、ネタバレを含みますので「それってパクリじゃないですか?」第5回をご覧でない方はドラマ観覧後にお読みいただくことをおすすめします。
弁理士が登場する知財のドラマ!日本テレビ系列で「それってパクリじゃないですか?」第5回、いかがでしたか?
特許庁も出てきて、知財業界人からは「おおーー」という雄叫びが聞こえてきそうな回でしたね。
ちゃっかり特許庁のPRも入ってましたし!
今回は「拒絶理由通知に対して」でした。
チラっと見えた拒絶理由通知の根拠条文は「36条4項1号」でした。
条文は、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」となっています。
いわゆる実施可能要件と言われるものです。
結構引かれる条文です。
特に化学の分野ではしょっちゅう引かれます。
あと、いわゆるサポート要件(特許法第36条第6項第1号)というものもよく引かれます。化学分野では。
そもそも、拒絶理由通知ってなんなの?
よくわからないけど、って感じですよね。
そこで今回は拒絶理由通知ってなに?
何が問題で、どうやって解消するのか、を解説してみたいと思います。
<解説ポイント① 拒絶理由通知ってなに?>
そもそも特許ってどうやって取得するのでしょうか?
特許を取得するには、最低3回の意思表示を行う必要があります。
1)特許出願
2)出願審査請求
3)特許料納付
まず、特許出願を行わないと箸にも棒にも……です。
そして、出願審査請求をしないと、特許にしてやんべーっていう審査をしてくれません。
出願審査請求は、特許出願から3年以内にする必要があります。
そして、審査した結果、特許査定というのが来たら原則30日以内に特許料(設定登録料)を納付しないと特許権が発生しないままになってしまいます。
拒絶理由通知ってなにかと言うと、出願審査請求をすると特許庁の審査官の審査に係属します。
審査されて、予め規定されている拒絶理由に該当すると判断された場合、拒絶理由通知が出されます。
拒絶理由通知が出されて、それに応答しないでいると特許を取れませんので、拒絶理由への応答(以下の意見書及び/又は補正書の提出)は第4の意思表示になりますね。必須でないのは、拒絶理由通知が出ない場合もありますので……
ちなみに拒絶理由には、上述の実施可能要件やサポート要件等の形式的要件違反の拒絶理由と、新規性や進歩性等の実体的要件違反の拒絶理由とがあります。
実施可能要件は、簡単に言うと、発明品を作って、使える(発明方法を使える)ように記載していること、です。
サポート要件は、発明の構成が、明細書という書類にキチンと書いてあること、です。
新規性とは、発明が客観的に新しいことで、進歩性とは、発明が容易に成し得たものでないこと、です。
<解説ポイント② 拒絶理由を解消するにはどうするの?>
拒絶理由通知が出されたときには、理由解消のために意見書を提出することができ、その際に合わせて補正書を提出することができます。
要は、理由なんてないよーって意見を言うのが本筋で、補正は補足的なものと言うのが法の建前だと、私は思っています(異論反論あります?)。
でも、実務上は、補正メインですね。
補正で解消できるかどうかが重要なケースが多いです。
ここで、特許出願するときに提出する書類にどんなものがあるかと言うと、願書と願書に添付する書類があります。願書に添付する書類は、特許請求の範囲、明細書、要約書、及び必要な図面です。
特許権が付与されるのは、特許請求の範囲に記載された発明になります。
なので、この特許請求の範囲に記載された発明が拒絶理由を含まないように補正をして、「ほら、見て見て。こんな風に補正したからぁ、もう拒絶理由なんてないんだよ♡」と意見書に書いて提出します。そして、それを審査官が認めれば晴れて拒絶理由が解消されることになります。
<解説ポイント③ 分割出願って補正の一種なんだってよ⁉>
ドラマでは、終盤になって拒絶理由解消のための起死回生の一手として「分割出願」がある!という展開になっていました。
女性主人公が「特許も分けられたらいいのに」という感じのセリフを言って、それに反応した弁理士さんたちが「その手があった」ってなるパターン。
まあ、ドラマとしてはこうしないと面白い展開にならないと判断したのでしょうけど……。
実際には、分割は最初に考えます。
というか、補正を考えるときに分割を含めて考えます。
ただ、分割がファーストチョイスになることはレアかもしれません。
というのは費用の問題があるからです。
普通は外部の弁理士さんに頼んでいるケースが多いと思いますが、拒絶対応の意見書作成提出だけならその費用だけですみます。
しかし、分割も行うと、意見書作成提出費用に加えて、分割出願手数料、出願印紙代、更に分割出願の審査請求費用も必要になります。
倍以上の費用がかかるわけです。
ただ、今回のケースは、甘酒の製造方法の特許ですが、ドラマでの説明から発酵工程と熟成工程とあることがわかりました。
また、その効果は、ポリフェノールの含有量とオリゴ糖の含有量とを両立するということのようですが、どうやら発酵はポリフェノールに、熟成はオリゴ糖に関与するみたいです。
そして、ドラマを見る限り、熟成工程の方がエビデンスに問題があると認識されているようです。
だとすると、対応としては以下の2つのどちらかだったと思います。
1)発酵工程を特徴とする発明と、熟成工程を特徴とする発明とに分割して、特許になりやすい方を補正で、なりにくい方(熟成の方)を分割出願とする。
2)熟成のエビデンスを示すデータを提出する。
ちなみに、2)については、ドラマのように学術的なエビデンスを要求された経験は無いですが、化け学の場合は、学術的なエビデンスは論文になると思います。
そして、論文に記載があるということは、この熟成工程を行えばオリゴ糖が増えるという根拠又は示唆する記載があるということになるので、結局進歩性を否定する根拠があるということになりかねないです。
要は、ドラマなので、お兄さんを登場させるために学術的なものにこだわっていましたが、実務ではデータになるでしょうね、ということです。
<誤解しないで データは大事……でもね……>
ドラマは面白くしないといけないですよね。
ドラマの面白さは「葛藤(と言ってもそんな大変なものでなくてケーキとお汁粉どっちにしよう的なもので(●`・ω・)ゞ<ok!)」にありますよね。
なので、このドラマでも葛藤作るために、主人公の同僚のお兄さんを登場させて、そのお兄さんの協力を得るべく奮闘するようなシチュエーション作っていました。
そのお兄さんが学会の権威で、学会の権威の人の協力が特許をとるために必要だぁーって、展開にしていたわけです。
しかし、これはドラマを面白くするためのもので、実際には必要なのはデータです。
データとは、エビデンスです。
何の?
特許をとろうとしている発明の構成から得られる効果が本当に得られていることを立証する、という意味のエビデンスです。
このエビデンスは、もちろん信ぴょう性がなければその弁明や公的試験機関での分析結果等が必要になることはありますが、データとして提出できればいいのであって学会の権威者のお墨付きが必要なわけではないです。
大事なことなので繰り返しますが、必要なのはデータです‼
それに、もっと大事なこととして、基本、データ追加の補正はできません。
いわゆる新規事項の追加になり、拒絶されてしまいます。
普通は、意見書の中に記載するか、実験成績証明書を提出する等します。
これをエビデンスとして、発明の構成から確かに効果が得られることを主張します。
ドラマでは「補正・補正」と言っていましたが、データの追加は補正ではできないと理解お願いします。
ではでは