「それってパクリじゃないですか?」第10回(最終回) 解説

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Last Updated on 2023-07-03 by matsuyama

※以下、ネタバレを含みますので「それってパクリじゃないですか?」第10回をご覧でない方はドラマ観覧後にお読みいただくことをおすすめします。

弁理士が登場する知財のドラマ!日本テレビ系列「それってパクリじゃないですか?」第10回(最終回)、いかがでしたか?

今回は、侵害訴訟の大詰めでした。

ライバル会社から特許権侵害で訴えられた主人公の会社。

なんとか侵害ではないと言えないか、様々な検討を行うことになります。

まあ、最終的には真の発明者ではない者が出願を行ったケース(いわゆる冒認出願)として、無償譲渡を受けることで決着がついていました。

簡単に会社のデータを持ち出せたとしても、データを見ただけで簡単に再現できないと思います。

そんなに簡単に再現できるのであれば、「出願しない」と言う判断は大間違いになります(もっとも出願しない場合には先使用権確保の公証を得ることが必須なので、このドラマでやっていることは大間違いですが)。

だって、データから簡単に再現できるのなら、技術者は「市販品を分析して、成分を確定して、調合することで再現できそう」ってピンと来ますからね。とすると、市販するのに出願しないという判断する知財担当はちょっとポンコツです。

まあ、ドラマですからここまで詰めなくてもいいですけど。

しかし、ドラマを現実と誤解されては行けないので、誤解してほしくない点について解説したいと思います。

特に、「色と味が変わるお茶」なる表現(機能的表現)で権利化できるのか、訴訟の進め方はどうなのか、について、今回も、「誤解しないで」モードで解説していきたいと思います。

<誤解しないで① 機能的クレームってあり?>

男性主人公「当社の製品は、40℃以下の低温処理を行いますが、特許発明では60℃以上の高温処理を行います。よって、両者は異なります……」

ライバル会社担当「そんなことは関係ない。弊社の特許は色と味が変わるお茶であって、その点、貴社製品は満たしている。よって侵害を免れない」

という感じのやり取りがありました。

最後までこの特許の権利範囲、すなわち請求項の記載が何なのか、私にはわかりませんでした。

物の請求項だと思いますが、製法の違いを言う必要があるのでしょう。製法が違うから成分が違うという言い方をすべきだと思いますが、まあ、ドラマなので……

細かい文字を見逃さないように見ていれば見つけられたかもしれません。

しかし、上記のやり取りをみると、請求項は「色味の変わるお茶」という感じで記載されているのだろうと思います。

こういう記載手法を「機能的」記載方法(機能的クレーム、クレームとは特許請求の範囲のことです)と言ったりします。

審査基準でもこういう記載は認められています。

実際、機能的記載は多くの特許出願で活用されています。

しかし、上記の「色味の変わるお茶」という記載はものすごく違和感を感じますし、この記載のみでは権利化することはできないと思います。

なぜ?

単に目的を記載しているに過ぎないからです。

例えば、次の記載だと、そんなの絶対ムリだよ、と皆さん言うと思います。

「過去や未来を見ることができる望遠鏡」

なぜでしょうか?

技術的に無理なことをみんな知っているからですね。

でも目的(目標)としては成り立つでしょう?

光よりも速い物質があって、それを見ることができれば実現可能かもしれません。

要は、目的を書けばいいなら誰でもどんな発明でもできてしまうわけです。

だから、単に目的を記載したに過ぎない請求項は特許にならない場合が多いです。

しかし、全くならないわけではありません。

明細書に、具体的な例が記載されている場合には、特許になり得ます

なので、「色と味が変わるお茶」もありです。

<誤解しないで② あれで特許になる?>

結論から言うと、「色と味が変わるお茶」では、特許にはなりません

具体的な成分が記載されていて、「AとBとを有し、味と色が変わるお茶」となっていれば権利化可能だと思います。

なぜ?

色と味が変わる、と言ってもどうやっているのかさっぱりわかりません

普通に入れたお茶でも、空気による酸化で色も味も変わりますから、その意味ではすべてのお茶が色と味が経時的に変化します。

味や色が変わるキャンディーやお茶はすでに世の中にあります。単に「色と味が変わる」と言うだけでは、従来あるものと区別が付きません。

なので、単に「味と色が変わるお茶」では権利化はできないでしょう。

<誤解しないで③ 機能的クレームは本当に広いの?>

機能的クレームは一般に「(権利範囲が)広い」と言われます。

ほんとうにそうでしょうか?

仮に「味と色が変わるお茶」で権利化できたとします。

そして、明細書には「特許発明では60℃以上の高温処理を行う」という実施例しか記載されていないとします。

そこで、今回の侵害訴訟が起こったとします。

そのときには、請求項の記載をどう解釈するのか、問題になります。

訴えられている側は、できる抗弁はすべて行います。必死ですからね。

どんな抗弁が考えられるかと言うと、明細書の記載に比して請求項が広すぎるという、いわゆるサポート要件違反があるので、本件特許は「無効」にされるべき、少なくとも「限定的に解釈」されるべき、という抗弁が考えられます。

また、色が変わる技術と味が変わる技術とを組み合わせて容易になし得たという、進歩性を満たさないから無効にされるべきという抗弁も考えられます(普通は両方主張します)。

そして、判決例でも、例示が一つしか無いときには機能的記載の請求項を限定的に解釈して、権利侵害の充足性を認めにくい傾向があります。

とすると、もし、実施例が1種だけで、温度が高温条件のものしかなかったとすると、その高温条件の場合に限定解釈される可能性が高いです。

なので、このドラマのようなケースだと、主人公の会社の実施品は低温処理ですから、非侵害となる可能性があります。

このように機能的クレームが必ずしも「広い」とは限られず、却って狭く解釈される可能性もあることは注意しないといけません。

<誤解しないで④ 訴訟は戦い!時間稼ぎは正義!>

ドラマでは、見どころが「冒認」とそれを行った人たちのドラマだったので、訴訟は凄くタンパクに行われていました。

実際にはそんなことあり得ません。

侵害訴訟を提起されて、プロジェクトが一つ潰れて何億も損害が出るかどうかの瀬戸際です。

必死です。

言えることは全部言います。

無効審判も請求する可能性が高いです。

無効審判を請求すると時間稼ぎできます。

時間稼ぎは妥当な結論に導くための精査の時間を稼げますから、大事です。

それに裁判官もあんな言い方はしません。

技術的な背景などもきちんと精査します。

最も大事なことは、技術の相違点は、権利侵害と解釈するかどうかの可否の問題点として裁判の論点にするはずで、ドラマのように「関係ない」なんて言われないし、簡単に引き下がるなんてありえないです。

まあ、ドラマですけど、ちょっとポンコツに過ぎます。

<余談 ドラマにすると……>

やはり、ドラマにすると難しいですね。知財、いえ、知的財産権メインだと。

そもそも知的財産権のやり取り(取得作業を含む)には動きがあまりありません。書類を作るのが仕事の大部分ですから。

しかし、ドラマにするには、動きを出す必要があります。

そこで、登場人物を物理的に動かせようとするのですが、するとどうしても無理矢理感が半端なくなって……

それと、主人公の弁理士をポンコツにしないと事件がドラマにならないのでしょうかね?

しかもポンコツを他の登場人物たちがスーパーと言っていることも、見る人が見れば不自然なので、その違和感は専門家でない人達にも伝わるのでは?

視聴者にわからないだろうと考えて誤魔化して作っているのだとしたら、視聴者に伝わってしまうと思います。

ドラマ関係者の方々が一所懸命作っているものを批判的に言うのは良くないと思いますけど……

余談ですが……

常々思っていることです。日本のドラマって、どうもヒューマニズムに訴えること、すなわち人の良心に語りかけて正しい行動(ドラマで正しいとリードしている行動)を促すことがよくあります。

これって、感動よりもリアリティの無さの方が勝ってしまうので興ざめしてしまう私がいます。

でも、今回のこのドラマでは、人の良心に働きかけても人は動かず、証拠を突きつけられて初めて動くことになっていたので、そこはリアリティがあってよかったです。

人間、エゴイズムの塊ですから、エゴを突き崩す証拠を示す方がリアリティが出るのでしょうね。

ではでは

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