Last Updated on 2023-06-01 by matsuyama
※以下、ネタバレを含みますので「それってパクリじゃないですか?」第8回をご覧でない方はドラマ観覧後にお読みいただくことをおすすめします。
弁理士が登場する知財のドラマ!日本テレビ系列「それってパクリじゃないですか?」第8回、いかがでしたか?
今回は、パテントトロールの大物が出て来て、脅迫まがいの交渉をしてくるのに対して、主人公たちが解決策を模索し、最終的にはスカッとした形で解決するというものでした。
いや、赤井さんの山場のシーンでのセリフ、かっこよかったです。しびれました。
常盤さんの目の演技も相まってなかなかぐっとくるシーンでした。
パテントトロールの大物役の鶴見辰吾さんの悪役っぷりも良かったですね。
その鶴見さんの主張「侵害しているから訴訟提起した。和解でもいいよ。でも1億払ってね」というのは、どうなのでしょうね。
この点をメインに解説していきたいと思います。
<解説ポイント① 侵害行為で訴えられたら?>
ドラマのようにいきなり訴訟を提起されたとしたら、やっぱりびっくりしますよね。
特に訴訟慣れしてない中小企業だとあたふたして言いなりになってしまうこともあるかもしれないですね。
まあ、普通はすぐに弁護士に相談するでしょうから、相手側の主張通りに示談に応じるなんてことはないと思います。
でも、いちゃもんをつけられたときの対処法を知っていれば心強いですよね。
まさに危機管理です。
事態を想定して、その対処法を理解して、できればシミュレーションしておくことで被害を押さえることできる訳です。
手順としては、
①権利者を確認し、特許権等の権利が有効に存続しているかを確認する。
権利者が変動していることがあります。何食わぬ顔して権利者でなくなっているのに文句言ってくる人がいますから、ちゃんと確認しましょう。
それに、権利は毎年の年金を納付しないと消滅します。なので、ほんとに存続しているかどうか確認するべきです。
これらの確認は、jplatpatでも行えますが、特許庁に原簿閲覧を請求することもできます。原簿を閲覧すると、写しをとれますので、証拠をそろえることができます。
②実施品が本当に権利範囲内にあるのかを確認する。
みなさんも「不法侵入だ」と他人から文句言われた経験ありますよね?……無い?……まあ、あるとしましょう。そのとき、足を踏み入れた場所が文句言っている人の土地に隣接されている公道だったら、そのことを主張しますよね?
特許でも同じようなことがあります。
特許権侵害と言われたけど、精査したら実は実施品は権利範囲外で、自由に実施できるものだった、なんてことがあり得ます。
よって、実施品が権利範囲にあるかどうかを精査することは非常に重要です。
権利範囲にあるかどうかは、実施品が特許請求の範囲(請求項)に記載された発明の技術的範囲に属するかどうかで判断します。
技術的範囲に属するかどうかは、なかなか難しいところですが、実務的には、特許請求の範囲(請求項)に記載された発明の文言と、実施品を文言にしたときに、両者の文言が一致するかどうかで判断します(文理解釈論)。
一致と言っても、文言、すなわち言葉の比較ですから多少違ってしまうのは致し方のないところです。なので、表現が多少違ってしまったとしても意味内容が同じと認められるのであれば同じとして考えようということで「実質的に同じかどうか」を見ます。
この意味内容が同じというのは、どう考えるのかということが問題になります(実質的に同じと言えない場合の理論として、「均等論」というのがあります。ここでは判例でいう「均等論」までは論じません。特許法概説第11版 吉藤幸朔著 熊谷健一補訂におけるP431の「均等論」をベースにお話します)。
多少表現が違っていたとしても、それにより得られる作用効果が同じなら、意味内容が同じとして、実質的に同じと評価できます。
だから、権利範囲に属するかどうかは、文言が一致するか、一致せず文言が多少異なっていたとしても作用効果が一致するか、作用効果が一致するなら技術的範囲に属すると評価する、と言うことになります。
この判断は本当に難しいです。
上位概念、下位概念も理解しておく必要がありますし、均等論を適用するべき場面の判断も難しいです。
例えば、機械的ファスナー(いわゆる登録商標「マジックテープ」です)の特許の侵害事件(ファスナー事件、最高判昭50.1.23速報9号180)では、「カギ状の雄部」と「キノコ状の雄部」とで問題になりましたが、キノコ状だと「カギ状」では得られない作用効果(あらゆる方向のループに係合しうる)が得られているので技術的範囲に属さないという判断がされています。
もし、「カギ状の雄部」ではなく、「係合部」としていたら、係合部は「キノコ状の雄部」の上位概念ですから技術的範囲に属することになります。
あ、これは結果論ですよ。結果論。この特許の出願時には「カギ状」とするのがベストな選択だったはずです。ただ、我々は過去の事例から学ばないといけないので、その意味でこういう議論が必要なのです。その点、何卒ご理解を!
③本当は権利になったことがおかしいかもしれない(無効理由がある)ので、いっそつぶす(無効にする)ことを考えよう!
さあ、権利範囲に属するのかどうか、考えてみたけど駄目だった。
そういう場合には、「やめる(実施を中止する)」「もらう(権利を譲り受ける、またはライセンスをもらう)」「かわす(設計変更する)」「つぶす(無効にする)」の4つの手段があります。
その中でも最後の手段、「やめる」「もらう」「かわす」はしたくない、そのままやり続けたい、そういう場合に取る手段が、「つぶす」になります。
実際には、無効審判を請求することになります。
いや、まあ、そう簡単にはつぶれないんですけど、でも、なんとか権利範囲を小さくして技術的範囲外にすることはできたりします。
例えば、「係合部」と規定されていたのを、L字状のものがあるよって言って、「カギ状」に減縮させるのです。
そうすると、自分の実施品「キノコ状」は権利範囲外になります。
こういうつぶし方もあるのです。
<解説ポイント② 発明者の補正と出願人の変更(名義変更)>
ドラマで、発明者と出願人を勝手に書き換えられていた、ということを言っていました。
そんなことできるのかというと、昔は難しかったと思います。というのは、発明者の補正にも出願人の名義変更にも、元の発明者や元の出願人の捺印が必要だったからです。
でも今は、発明者補正には元の発明者の捺印が不要です。
なので、発明者の補正は代理人が勝手にやることは可能と言えば可能です。
弁理士は絶対にやりませんよ。
資格なくなってしまいますから。
ただ、名義変更は印鑑証明が必要ですから簡単ではないですね。出願の時に印鑑証明が必要だと言って、特許庁に出させておくとかしていれば可能ですかね。一回出せばいいので(後は援用できます)。
あ、言い忘れていましたが、前提として、発明者を間違って記載して出願することもありうるので、発明者の補正はできます。
出願人は、特許(正確には「特許を受ける権利」又は「特許権」)が譲渡可能ですので、当然変動し得ます。よって、名義変更は当然に可能です。
あと、ドラマ的にちょっとなぁと思ったのは、鶴見さんのお役の方は「悪事の証拠を残さない」と言っていたにも関わらず、「代理人」として手続きを行っていたのです。
こんなのプロのブローカー(パテントトロールやるような人はプロ中のプロのブローカーです)はやりません。
出願人の名義変更も発明者補正も本人がやればいいだけのことですから、本人名義で。
なので、ドラマ的には証拠が挙がってるって感じを狙ったのでしょうが、ちょっとご都合主義的に感じてしまいました。
ただ、見ていて気付かない人の方が大多数だし、あの作り方の方がスカッとするのかもしれません。
でも、うーん、ま、いっか。
<誤解しないで ほんとは本人が直接なんて……>
ドラマですからね、本人が登場して直接交渉した方が映えます。
あれが臨場感あるし、スカッとする作りになっていていいですよね。
でも、現実にはあんなことしません。
下手すると●されます。
文章のやりとりだけです。
交渉も基本は代理人を立てて行います。
本人はどうしても感情的になりますから、代理人に粛々と交渉を進めてもらう方が妥当な線に落ち着きます。
それに脅迫めいたことは言わないと思います。
思いたい。
でも人間ですから、言ってしまうのです。
言わなくていいことを。
代理人でも。
弁護士さんもこれで警察行きの方も結構いらっしゃいます。
皆さんも、あのドラマのような脅迫罪マガイなことは言わないように気をつけましょ。
ではでは