「それってパクリじゃないですか?」第9回 解説

この記事は約6分で読めます。

Last Updated on 2023-06-08 by matsuyama

※以下、ネタバレを含みますので「それってパクリじゃないですか?」第9回をご覧でない方はドラマ観覧後にお読みいただくことをおすすめします。

弁理士が登場する知財のドラマ!日本テレビ系列「それってパクリじゃないですか?」第9回、いかがでしたか?

今回は、キャラクターデザインを担当したイラストレーターさんからの文句に始まり、ライバル会社から警告状が届く展開になっていました。

いやあ、いろいろ言いたい。

今回は、ほんっとにいろいろ言いたい。

ということで今回は解説というか誤解してほしくないポイントとして説明します。

いやあ、ドラマに文句つける気はないのですが、ドラマにするために普通ならやるべきことをやらない設定にしたり、ロジック合わないことを言わせたりしているのです。

普通のドラマ、例えば殺人事件のドラマならいいと思うのです。見ている人たちも「そんなことあるかい」という気で見られますからね。

でも知財の話となると、ほとんどの人はツッコミできません。

ドラマを真実として信じてしまいかねないのです。

なので、なので、私は言いたい。

みなさん、誤解しないでくださーい。

<誤解しないで① ノウハウ保護は先使用権と共に>

ドラマでは、主人公の会社では、新商品「カメレオンティー」の中核技術の発明については特許をとらない戦略を立てていました

これは特許を取るためには、技術を公開することが必須となるので、特許として保護するのではなく、ノウハウで保護しようという戦術ですね。

これについては、第6回の記事でも説明していますので、そちらもどうぞ!

しかし、ライバル会社に、その中核技術について特許を取得されてしまいました。

これってどうなの? 偶然がすぎないって感じですが、法的には、ライバル会社が特許権を取得した場合、当然そのライバル会社が特許権者となりますので、権利のない主人公の会社は権利侵害を犯す侵害者となってしまいます。

よって、主人公の会社では、ライセンスをもらう等しない限り、「カメレオンティー」を製造販売することができません。

こんなことになることは、本来想定内のはずです。

だって、自分たちが開発できた技術は、他の誰かも開発できるものと思って行動することは、知財のプロであれば当然やるべき思考なのですから。

ということは、本来、上述の戦略をとるときには、当然やるべきことがもう一つあるのです。

ドラマでは、ドラマとして面白くするために、この当然やるべきことをやらない設定にしていました。

これが、まあ、ドラマですからいいのですが、男性主人公をここまでポンコツ弁理士に仕上げなくてもいいかなぁ(ドラマではスーパー弁理士扱いされていますが……)と思ってしまいます。

と、脱線してしまいましたが、この当然やるべきことというのは、ドラマでも出てきましたが、「先使用権」を確保するための手続をとります。

具体的には、公証役場に、実施のための資料、商品設計書、レシピ、工場のライン設計書、販売計画、広告のための契約書等々実施の準備が整っていると言える証拠は全てもっていって、公証人に日付などを証明してもらうのです。

これを持っておけば、もし、このドラマのようなことがあっても、特許出願前から実施の準備を整えていたと言えるので、法定のライセンス(通常実施権といいます)を得ることができます。

詳しくは特許庁の解説ページがありますので、そちらを御覧ください。

今は、タイムスタンプなんて便利なものもありますので、そういうのを活用することも重要ですね。

私は公証役場派ですが。

大事なことなのでもう一度言います。

ノウハウ保護戦略をとるときには、先使用権の確保が必須です。

これをしない知財担当者はいません。

いないと思います。

いや、信じます。

<誤解しないで② 知財はビジネスのため→金にしないと意味がない>

ドラマでライバル会社の偉い人が、「うちでは実施しません。でもこの特許があることでライバル会社のプロジェクトを一つつぶせる。これは正しいビジネスだぁ」なんて言っていました。

こんないやなやつ、ドラマ的には正解なのです。

なのですが、現実には、あり得ないです。

まず、特許とれるような開発ができない(ゼロではないですが)です。

だって、会社が開発のためのコストをかけるのは、実施品を作るためです。もちろん、実施品に直接関係するかどうか等の諸問題はあるとしても、実施する意思がゼロの技術開発を行う可能性は極めて低いでしょう。

次に、特許を取得するのもコストがかかります。特許を取得できるということは出願費用のほかに当然開発費用(偶然完成する技術もありますが、これも開発費がかかっていますから当然回収しないといけません)も掛かっているはずです。

会社としては、単なる嫌がらせではなく、これらのコストを回収し、さらなる利益を得るために、特許をお金に変えようとするはずです。

嫌がらせで終わらせても一銭にもなりませんが、ライセンスを結べばライセンス料が入ってきます。

ライセンス料率売上比3%で10億売り上げれば、単純計算ですが、年3千万円ライセンス収入が入ってきます。

権利が切れるまでこれが続くのです。

実利をとる方がビジネスだと考えるのが、通常のビジネスマンでしょう。

<誤解しないで③ 著作権の契約の実際>

ドラマでは、以前提供したイラストを、以前提供したものとは別の資料に勝手に使われ、しかも若干の改変が行われていたと、イラストレーターが文句を言ってくる展開でした。

まあ、ありがちですが、ドラマだなと思ったのは、「いや契約で、会社が自由に使えるし、改変も自由だとなっている」と言っていた点です。

契約は、そんな雑にしません。

著作権は、著作権者のことを非常に大事にしている法律だし、ドラマで言っていましたが、著作者は自分の創作物を大事に思っているし且つ大事なお金の元なので、流用や改変は非常にデリケートな問題です。

そこで、予め契約で、流用できる範囲や改変できる範囲を決めておきます

そして、それ以外のものに使う場合には、新たな使用料が発生するように契約するのが通常です。

これって著作者が気をつけないと駄目じゃね?って思いますか?

確かに、契約相手が性悪のところだったら著作者が気をつけないとだめかもしれませんが、普通の会社ならそのあたりもきちんと取り決めてあらかじめ説明します。

後でもめる方が面倒だし、そのための契約書ですから。

このドラマのケースでは、当然別の資料への流用時に、イラストレーターさんに承諾をとって使用料の取り決めを行うはずです。

たぶん。

<誤解しないで④ クロスライセンスは交渉材料>

ドラマではクロスライセンスを持ちかける考えを、ライセンス料がバカ高いから無理だというロジックが展開されていました。

これ、なんか違和感。

何が?

このライセンス料を下げる交渉をするための材料が、クロスライセンスのネタです。

だから、クロスライセンスのネタを基にライセンス料を下げさせる交渉を行うのが本来あるべき姿です。

いやいや、相手方は実施しないって……

いやいや、その気にさせるのも交渉ですから。

なんてことない水も売り方ひとつで……ですからね。

タイトルとURLをコピーしました