Last Updated on 2013-04-04 by matsuyama
「形式的に侵害行為を構成する」という文言の本質について、私はこう考えます。
すなわち、「裁判所が、侵害行為の規範からすると侵害行為の存在を認めざるを得ない事案において、法益侵害の観点から侵害行為の存在を否定しようとする場合の詭弁である」と考えます。
訴訟において、当事者である原告も被告も「形式的に侵害する」などとは口が裂けても言えません。少なくとも私は言いません。原告側からすると「形式的」という文言に被告の突っ込み所を作ることになりますし、被告側からすると「侵害行為の存在」を認めることになります。
これに対して、裁判所が判断する際には、規範に当てはめて結論を導くわけですから、侵害の規範を、登録商標またはこれに類似する商標の指定商品等への使用と定義し、これに当てはまる態様での当該マークの使用が認められるのであれば、侵害行為を直ちに否定することはできないことになります。
しかし、当該マークの使用が何ら商標法の法益である「業務上の信用」を害しない、換言すると商標の機能を発揮しない態様での使用であるならば、このようなマークの使用を商標権の侵害行為であるとして差し止めや損害賠償を認めることはかえって法趣旨に反するということがいえます。
このため、裁判所においては、このようなマークの使用を「形式的には侵害行為を構成する」と言った上で、商標の使用と言えるかどうかを論じることにより「(実質的には)侵害行為とは言えない」として行為そのものの侵害性をひっくり返しているのだと私は考えます。
要するに、「形式的に」という文言は、侵害行為そのものの存在を否定するために存在しているのであり、抗弁権の存在を検討するために用いているわけではないと言えます。
ですから、登録商標の使用と抗弁権の存在との両方を検討しなければならない平成18年度の商標法の問題等を書くと、単に侵害行為の存在を認めた段階で本質の理解なく「形式的に侵害する」と書いてしまうと、そのあとで、侵害行為の存在そのものを否定するように論証するのか、抗弁権が存在するから侵害ではないと論じるのかがはっきりしないぐちゃぐちゃの答案になってしまうのでしょう。
では