裁判例紹介:送信可能化権の侵害と発信者情報開示請求

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Last Updated on 2019-08-14 by matsuyama


こんにちは。弁理士の松山裕一郎です。今回は、最近の裁判例から、送信可能化権の侵害に関して争われた事例をご紹介します。インターネットの発達とともに、著作権の侵害もあり方が多様化してきました。知らないうちに自分も関わっていた、となっては困りますよね。著作権を持つ側の立場でも、自分の権利の守り方は押さえておきたいところです。実際の裁判ではどのような争いがあったのか見てみましょう。

事案の概要

本件は,レコード製作会社である原告らが、自らの製作に係るレコードについて送信可能化権を有するところ、氏名不詳者において,当該レコードに収録された楽曲を無断で複製してコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置し、インターネット接続プロバイダ事業を行っている被告の提供するインターネット接続サービスを経由して自動的に送信し得る状態にして、原告らの送信可能化権を侵害したことが明らかであると主張したものである。
被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、上記氏名不詳者に係る発信者情報の開示を求めた。


争点

争点1)
本件各レコードの送信可能化権(著作者が、インターネットなどを介して著作物を自動的に公衆に送信できる状態にする権利)を侵害されたことが明らかであるか

争点2)
発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか


裁判所の判断

争点1)
本件各レコードの送信可能化権を侵害されたことが明らかである。
理由)
システム開発会社が、自社開発の利用者のアイ・ピー・アドレス等を特定する方法として信頼性が認められると認定されたシステム「P2P Finder」を使用して、P2P型ファイル交換ソフトである「Share」を介して公開されている音楽ファイルを監視していた。本システムは市販されている音楽CDの音源が公開されていないかを監視する機能をもつシステムとなる。本システムにより、被告の提供するインターネット接続サービスが他の不特定の利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して原告の制作に係る各レコードに含まれる楽曲ファイルを自動的に送信し得る状態にしたことが検出された。よって、原告が有する本件各レコードの送信可能化権を侵害したと認められる。

争点2)
発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
理由)
被告は、被告からアイ・ピー・アドレスを割り当てられた氏名不詳者による本件各レコードの送信可能化権侵害との関係において、プロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たるところ、原告らが同侵害に基づく差止請求権や損害賠償請求権を行使するためには、上記氏名不詳者に係る発信者情報(氏名(又は名称)、住所及び電子メールアドレス)の開示を受ける必要があるから、原告らにはその発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。


原文URL: http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/799/088799_hanrei.pdf (新しいタブで開きます)

コメント

言うまでもないことですが、最近ではネットを通じて著作物(音楽や動画、写真、絵画)を複製頒布する行為が非常に、簡単に且つ多く行われています。こういった行為は、著作物を制作する著作者の権利を侵害するのですが、それがどういうことかというと著作物を作ってもお金にならないことを意味します。お金にならなければ著作物を作っても生活ができませんので著作物を作る人がいなくなります。結果的に我々が楽しむべき著作物がなくなることになります。
なので、著作物を無断で頒布し得る状態に置くことも許されない行為だということになります。知らず知らずのうちにやってしまう可能性のあることですから、私も気をつけたいと思います。
よく言うことですが、特許や商標はビジネスの現場でないと侵害することはないのですが、著作権は普通の生活をしていても侵害する可能性がありますので、本当に注意が必要です。特に頒布していなくてもネット環境において自由にアクセスできる状態としただけでも著作権侵害となることは肝に命じておく必要があるのでしょう。


また、こうした著作権の違法に当たるかどうかについてわかりやすく解説のあるサイトも多数あります。ここでは文化庁のサイトをリンクしておきますので、「これって違法なのかな?」という疑問解決にお役立てください。こちらから飛べます。(著作権なるほど質問箱)


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