Last Updated on 2019-08-14 by matsuyama
こんにちは。弁理士の松山裕一郎です。今回は、最近争われた裁判例から、商標法50条の「商標の使用」の具体的な例がどのようなものであるかがキーとなった事例をご紹介します。
事案の概要
被告は平成30年、「MUSUBI」という商標文字(以下本件商標という)を指定役務第16類、および第35類で商標登録申請を行い、商標権者となった。その後、原告が本件商標登録につき、第35類に属する指定役務に対し、商標法50条1項の規定による取消審判を請求した。
原告は、「原告は、被告の事業は、『贈り主』から『受取手』への贈答の媒介又は代行であり、これによって『ギフトを通じて人と人とを結びつけ』るという役務を提供している、「受取手」に対する商品の配送業務は、ギフトカタログの販売に付随するものであって、独立した商取引の対象となってない」と主張した。
本件における争点
- 被告が指定役務中第35類に属する指定役務について、商標を使用しているか(商標法50条1項)
( 被告の事業行為が商標法50条1項を満たすものかどうかを判断するためには、商標法50条1項本文「商標の使用」についての「使用」を定義している商標法2条3項各号の定義を満たす行為であることが必要になるため、この点も確認しなくてはなりません )
判決とその理由
——請求棄却
被告の事業行為は、商標を「使用」していると認められる。原告の請求には理由がない。
前提となる事実
被告は、衣料品、インテリア、雑貨、コスメ(生活用品)や飲食料品等を取り扱う通信販売事業者であり、平成21年にギフトカタログ「MUSUBI」を創刊して、当該ギフトカタログに係るカタログギフトオーダー業を開始した。カタログオーダーギフト業とは、贈答商品の「贈り主」が、ギフトカタログを当該役務の提供者から購入して「受取手」へ送付し、ギフトカタログを受け取った「受取手」がそのギフトカタログの中から好みの商品を選んで当該役務の提供者に注文して、商品を受け取るという贈答の一形態である。事実、被告はカタログやインターネットウェブサイトを通じて通信販売事業を行っており、衣料品をはじめインテリア、雑貨、コスメ(生活用品)や飲食料品まで多岐にわたるジャンルの商品を販売している(争いがない)。
また、被告のギフトカタログ「MUSUBI/Grand/CATALOG GIFT」(以下本件使用カタログ)の表紙の中心には、正方形の四角をやや切り取った白色の図形中に、当該図形の外周内側に沿って白の点線を有する金色の帯を配し、当該図形の内側にややデザイン化した「MUSUBI」の文字及び筆記体で表した「Grand」の文字をやや大きく表して配し、その下に紫色の水引細工状の図形及びゴシック体で表した「CATALOG GIFT」の文字がそれぞれ間隔を空けて配してなる標章(以下、本件使用カタログ標章)が表示されている。
判断理由
1)
被告は、ギフトカタログに掲載された商品について、業として、ギフトカタログを利用して、一般の消費者に対し、贈答商品の譲渡を行っているものと認められるから、被告は、小売業者であると認められ、小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供を行っているものと認められる。そして、上記便益の提供には、本件使用カタログが用いられているから、本件使用カタログは、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」と認められる。
2)
本件のややデザイン化した「MUSUBI」の文字(本件使用商標)は、本件商標と社会通念上同一と認められる。また、被告は本件使用カタログ記載の商品を、本件使用カタログ発行と同年の12月までに「受取手」に送付したことが認められる。よって、被告は、本件要証期間内に日本国内において、本件審判の請求に係る指定役務中、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」に当たる本件使用カタログに本件商標と社会通念上同一と認められる本件使用商標を付し、これを用いて小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供という役務を提供したと認めることができる。この行為は、商標法2条3項3号「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為」及び同項4号「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為」に該当する。よって商標法50条1項本文の「商標の使用」をしているといえる。
これにより被告は、本件要証期間内に、日本国内において、本件審判の請求に係る指定役務について本件商標の「使用」をしていることを証明したと認められる。
コメント
昨今、インターネット取引が商取引の主流になって来ています。買い物の半分くらいはインターネットで行っているという人も多いのではないでしょうか?ネット取引の携帯も多様性をもっています。どんどん新しい取引のアイディが生まれ、ネット空間で試されています。そうなると、難しいのは商標における指定役務です。既存の役務では対応できないものも多くなってくるでしょう。
実務的には35類の小売はかなり広く捉えられると考えて行動したほうがいいと思います。ネットを介しての商取引でコンシューマーが絡むものはすべて小売と考えざるを得ない可能性があるからです。
権利化するときにも頭を使いますが、侵害回避の方は安全策をとるべきでしょう。
今回は、商標法の条文の判断をどのように行うものか、ネットを介した業務が拡大する昨今ならではの事例をご紹介しました。