Last Updated on 2022-04-21 by matsuyama
2条では、発明や実施についての定義を規定しています。実務では「特許」「発明」「特許発明」という言葉が当たり前に使われますが、これらの言葉の意味はどう定められているのか、確認しておきましょう。
特許法第2条1項: 発明=「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」とは?
特許法第二条(定義)
この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。
特許法
2 この法律で「特許発明」とは、特許を受けている発明をいう。
3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
二 方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為
三 物を生産する方法の発明にあつては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
4 この法律で「プログラム等」とは、プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下この項において同じ。)その他電子計算機による処理の用に供する情報であつてプログラムに準ずるものをいう。
「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」って何…?
1項では、発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」、と規定しています。少し難解な表現ですが、この「自然法則」や「技術的思想の創作」については、青本記載では以下のようになっています。
2 〈自然法則を利用した〉欧文文字、数字、記号を適当に組み合わせて電報用の暗号を作成する方法については、自然法則を利用していないので特許法にいう発明とはいい難いという趣旨の判決がある。
工業所有権法逐条解説第21版(※一部内容を強調しています)
3 〈創作〉二九条一項各号及び二項に規定する発明の新規性及び進歩性との関係が問題になるが、本条にいう創作は発明時を基準として考えられるものであり、しかも主観的に新しいと意識したものという程度の軽い意味であることをもって足るものと考えられる。これに対し二九条の新規性及び進歩性の問題は特許出願時を基準として判断される問題であり、しかも客観的なものでなければならない。
つまり、「自然法則を利用した」というのは、この世界にもともと存在している現象や物を使って、と言い換えるイメージになります。そこからさらに「技術的思想の創作」にまですることで、これを「発明」と呼べるようになるということが書かれています。
この発明の定義「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」という言葉は、ぜひ覚えておいてほしいところです。特許法上の発明に該当しないものを出願しても、拒絶されて特許として認めてもらえません。(ちなみにこの場合は29条1項柱書き違反として拒絶されます)
審査基準には、「発明に該当しないもの」の例も記載されています。具体的に発明にならないとされているのは、どのようなものでしょうか。
発明に該当しないもの
(1) 自然法則自体
特許審査基準(特許庁編)
エネルギー保存の法則、万有引力の法則等:自然法則そのものは発明とはならない
(2) 単なる発見であって創作でないもの
天然物(例:鉱石)、自然現象等:自然(法則)そのものは発明とはならない
※しかし、天然物から人為的に単離した化学物質、微生物などは、創作したものであり、「発明」に該当する。
(3) 自然法則に反するもの
いわゆる「永久機関」等
(4) 自然法則を利用していないもの
例1:コンピュータプログラム言語
例2:徴収金額のうち十円未満を四捨五入して電気料金あるいはガス料金等を徴収する集金方法。
例3:原油が高価で清水の安価な地域から清水入りコンテナを船倉内に多数積載して出航し、清水が高価で原油の安価な地域へ輸送し、コンテナの陸揚げ後船倉内に原油を積み込み前記出航地へ帰航するようにしたコンテナ船の運航方法。
例4:予め任意数の電柱を以ってA組とし、同様に同数の電柱によりなるB組、C組、D組等所要数の組をつくり、これらの電柱にそれぞれ同一の拘止具を取付けて広告板を提示し得るようにし、電柱の各組毎に一定期間づつ順次にそれぞれ異なる複数組の広告板を循回掲示することを特徴とする電柱広告方法。 (参考:東京高判昭31.12.25(昭和31(行ナ)12))
(5) 技術的思想でないもの
(a) 技能
例:ボールを指に挟む持ち方とボールの投げ方に特徴を有するフォークボールの投球方法。
(b) 情報の単なる提示
例:機械の操作方法又は化学物質の使用方法についてのマニュアル、録音された音楽にのみ特徴を有するCD、デジタルカメラで撮影された画像データ、文書作成装置によって作成した運動会のプログラム、コンピュータプログラムリスト(コンピュータプログラムの、紙への印刷、画面への表示などによる提示(リスト)そのもの)
なお、情報の提示(提示それ自体、提示手段、提示方法など)に技術的特徴があるものは、情報の単なる提示にあたらない。
(c) 単なる美的創造物
例:絵画、彫刻など
(6) 発明の課題を解決するための手段は示されているものの、その手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能なもの。
例:中性子吸収物質(例えば、硼素)を溶融点の比較的高い物質(例えば、タングステン)で包み、これを球状とし、その多数を火口底へ投入することによる火山の爆発防止方法。
(火山の爆発は、火口底においてウラン等が核分裂することに起因することを前提条件としている。)
人が勝手に決めたもの、言葉にできないような感覚的なもの、実現可能性が科学的に立証できないものは、発明とは言わないよ!ということです。
特許法第2条第2項「発明」と「特許発明」 言葉の意味の違いはその範囲の広さの違い
2項では、「発明」と「特許発明」とは違うものだといっています。「特許発明」とは、特許になった発明、もっと正確に言うと、特許の設定登録がなされた案件の特許請求の範囲に記載された発明、ということになります。「発明」は、技術的思想の創作ですから、ベン図でいうと、「発明」が広くて、「特許発明」は狭い、ことになります。図にしてみるとこのような感じですね。
特許法第2条第3項 「実施」のそれぞれの定義ー 1号:物の発明における実施 2号:方法の発明における実施 3号:物の製造方法における実施
3項は、発明の種類によって、それぞれの発明を「実施」する状態がどのようなものかを定義しています。
3項1号は、物の発明における「実施」の意義 2号は、方法の発明における「実施」の意義 3号は、物を生産する方法の発明における「実施」の意義
を、それぞれ定義しています。以下で詳しくみていきましょう。
3項1号は、物の発明における実施の意義を、2号は、方法の発明における実施の意義を、3号は物の製造方法における実施の意義をそれぞれ定義しています。
重要なポイントは、「実施」という文言です。この「実施」という文言は特許法36条4項1号でも用いられています。
36条は、特許出願書類の記載要件を規定したものです。
ということは、36条4項1号の要件を満足するためには、2条3項の「実施」を満たすように記載する必要があることになります。最初に各条文で使う言葉を定義づけているわけですね。これはどの法律にも共通することになります。
1号の物の発明においての「実施」の意義は、「その物の生産、使用・・・」をすること、とあります。ですから明細書には、物の構成を書くことはもちろん、当該物を生産できるように記載し、且つ使用できるように記載する必要がある、ということになります。
2号の方法の発明においての「実施」の意義は、「方法の使用をする行為・・・」とあります。ですから、明細書にはその方法を使用できるように記載しないといけないということになります。
3号の物物を生産する方法の発明ににおいての「実施」の意義は、「前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用・・・・」をすること、とあります。ですから明細書には、製造方法の使用ができるように記載する必要があることはもちろん、生産して得られた物の使用ができるように記載しなければならない、ということになります。物の製造方法の発明の場合には、方法自体の説明の他、得られる物と得られる物の使用とについても記載しなければならないということですね。
このように条文を丁寧に見ていくと、明細書にどのようなことを記載しておかなければならないかが判ってきます。
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