Last Updated on 2025-12-17 by matsuyama
特許明細書を書く上で、クレームの「型」を理解することは、実施例の記載力を高めるうえで非常に重要です。
発明のカテゴリー(物、方法、物の製造方法)によっても記載すべき事項は変わりますが。それに加えてクレームの型によって記載すべき内容や注意点が大きく変わるからです。
今回は、代表的な6つのクレームの型について、それぞれの特徴と実務上のポイントを解説します。
これらはもう20〜30年前から存在する型で、現代的には多少のモディファイはあると思いますし、個人的にはパラメータ等は拡張されるべきもののようにも思います。しかし、それらもこの基本型の上に成り立っていますので、まずはこれらをしっかりと理解することから始めましょう。
クレームを読んで、「特許の文章ってなんて難しいのだぁ」と思った方は多いのではないでしょうか?
その原因は、「体言止め」の長文であることが起因していると思います。
このわかりにくい「体言止め」の文章を意味が一義的に通じるように記載するため(まあ、限界はあります。言葉ですから)にも、型をしっかりと理解しましょう。
1. USタイプ(要素列挙方式)
最も基本的な型で、物・方法・製造方法すべてに適用可能です。
構成要素を列挙し、それぞれの特徴を記載する形式です。
USタイプというのは俗称で、正式には要素列挙方式等というようです。
基本形:
A、BおよびCを具備してなり、
Aが…であり、Bが…であり、Cが…であるX。
ポイント:
- 各要素の構造や機能を明確に記載する
- 書き流し方式(「…を設け、…を配し、…してなる」)もこの型に含まれる
2. ジェプソンタイプ(プリアンブル方式)
日本でよく使われる型です。日本語との親和性が高いのでしょう。
日本語は主語と述語が離れているので、この形式が、主語と述語とを近くに配置しつつ体言止めの文章を記載できるので書きやすいのだと思います。
既知(かもしれない)構成(プリアンブル)に新規の特徴を加える形式です。
基本形①:
A、BおよびCを具備してなるXであって、Cが…であるX。
基本形②:
A、BおよびCを具備してなるXにおいて、Cが…であるX。
ポイント:
- 「であって」はプリアンブルを公知としない
- 「において」はプリアンブルを公知と認める
- プリアンブルも構成要件なので、説明は必要ですが、簡略にまとめることが可能で、特に「おいて」の場合はかなり省略可能です。
3. マーカッシュ型
化学分野でよく使われる型で、それぞれ関係性が薄く別のカテゴリーに属する複数の選択肢を列挙して群をもって規定する形式です。
基本形:
A、BおよびCを具備してなり、
Aが、a、b、c、dおよびそれらの混合物からなる群より選択される1種以上のYであるX。
具体例:これは具体的な例があったほうがいいですよね
金属化合物、有機溶媒およびバインダーを具備してなり、
上記金属化合物が、アルミナ(Al2O3)、マグネシア(MgO)、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)及びシリカ(SiO2)およびそれらの混合物からなる群より選択される1種以上の金属酸化物である塗料。
上記の酸化物を構成する金属は、遷移金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属、卑金属に該当し、それぞれカテゴリーが異なります。
このような記載を認めているのは、化学が法則性が見当たらなくても成り立つ学問分野であることを経験的に理解していることに起因するのでしょうね。
ポイント:
- 群の構成要素を網羅的に記載
- 実施例で各選択肢の具体例を示すことが重要
4. パラメータ型
物の発明を、物の構造で特定できない場合に、物性値などの特性で規定する型です。
基本形:
A、BおよびCを具備してなり、
Aが、aが10〜20の範囲内であり、bが20〜30の範囲内であるX。
具体例:
芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、及び脂肪族ジオールの縮合反応物であるポリエステルポリオールを含む、塗料組成物であって、
上記塗料組成物からなる塗膜の膜厚が15μmのときに300%以上の伸び率を示し、鉛筆硬度がB以上である、
塗料組成物。
ポイント:
- 物として規定できない理由や数値範囲の臨界意義を記載する。
- 測定方法や条件も明示する必要がある
- 重要なのは「製造方法が従来のものと異なる」点を理解し、明細書に入れておくことです。
5. プロダクト・バイ・プロセス型
物の構造が不明瞭な場合に、製造方法で物を特定する型です。
パラメータに似ていますね。近年の判例で従来のように安易に認めてもらえるわけではなくなりました。
しかし、製法でなければ物を規定できない、要は何ができているのか現状の技術では判明できないが得られる機能が異なるので物としては異なるものである、ことが明確であれば、その旨明細書で明記することで認めてもらえる可能性があります。
基本形:
AにBを作用させた後、得られた混合物にCを添加して反応させてなるX。
ポイント:
- 製法が物の特定に不可欠な場合に使用
- 製造条件や順序を明確に記載する
6. 機能的クレーム
構造ではなく、機能や作用によって物を特定する型です。
単に目的をもって請求項を組み立てることになるので、不明瞭もしくは従来の物を含む新規性のないものになりがちです。
通常は、機能的な表現と具体的な構成とを組み合わせて記載することが多く、機能的な表現のみで認めてもらえることは滅多にないです。
基本形:
A、BおよびCからなり、
Aが、Bを左方向に移送させるに伴い、Cが上方に移動するように構成してなるX。
ポイント:
- 機能を実現する構造の説明が必要
- 実施例で動作や効果を具体的に示す
まとめ
クレームの型を理解することで、実施例の記載が格段にスムーズになります。特許実務では、型に応じた記載力が審査対応や権利化の成否を左右することもあります。次回は、USタイプの実施例の書き方(構造物編)を具体的に解説していきます。

