前回は、クレームの型を6つ紹介しました。今回はその中でも最も基本的で汎用性の高い「USタイプ(要素列挙方式)」について、構造物クレームを例に実施例の書き方を解説します。
USタイプとは?
USタイプは、構成要素を列挙し、それぞれの特徴を記載する形式です。物・方法・製造方法のいずれにも適用可能で、特許実務では最もよく使われる型のひとつです。
基本形:
A、BおよびCを具備してなり、
Aが…であり、Bが…であり、Cが…であるX。
この形式では、各要素の構造や機能を明確に記載することが求められます。
構造物クレームの実施例に必要な要素
構造物(物)の発明では、以下の4点を記載するのが原則です:
- 物の構造、各構成部材の形状・構造・材料、各構成部材相互の関係(どのような位置関係にあり、つながっているのかいないのか等)
- 製造方法
- 使用方法
- 作用効果
構造から生じる作用や効果も記載することで、発明の有用性、特に課題解決のメカニズムと+αの効果(あれば)を明確に伝えることが重要です。
特に、最近では、課題を解消する構成を明確にすることが分野の如何を問わずに要求されていますので、しっかりと作用効果を記載しておくことが重要です。
椅子のクレームを例に考える
以下は、椅子の構造に関するクレームの一例です:
座部、座部の下方に設置された複数の脚部、及び座部に連設された背もたれ部からなり、
上記座部は矩形状であり、脚部は角柱状で座部の四隅に配置され、背もたれ部は一枚の板体で座部の一辺から上方に延設され、上縁に向かって幅が広くなるように構成されている椅子。
このクレームに対応する実施例は、以下のように構成できます:
実施例の構成例
① 構造の説明
本実施形態の椅子1は、座部10、脚部20、背もたれ部30から構成される。
座部10は正方形状で、使用者の臀部を安定的に保持する。本実施形態においては、座部10は木材により形成されている。
脚部20は四角柱状で、座部の四隅に配置され、安定性を確保する。
背もたれ部30は板状で、座部の一辺から上方に延設され、上方に向かって幅が広がることで背中を快適に支える。
② 使用方法
使用者は座部に腰掛け、背中を背もたれ部にもたれかけて使用する。
③ 製造方法
座部の角に接着剤で脚部を固定し、背もたれ部は釘などで座部に取り付ける。
材料は木材やプラスチックなど任意で、接着剤も特に制限はない。
④ 作用効果
背もたれ部の形状により、座部との接続が容易で、背中の保持性が向上する。
脚部の配置により、安定性と安全性が高まる。
⑤例外
他の構成例等を記載しておきましょう。例えば、「座部は、正方形状でなく、円形、三角形状等種々形状とすることができる」といった感じです。
実務上のポイント
- クレームの文言をなぞるだけでなく、より具体的な表現に落とし込む
- 各構成要素に対して、その作用・効果を記載する
- 製造方法は省略可能な場合もあるが、原則は記載する
- 使用方法と効果は、発明の有用性を伝えるために重要
まとめ
USタイプの構造物クレームに対する実施例では、「構造・使用・製造・効果」の4点を意識して記載することが重要です。クレームの文言を具体化し、発明の有用性を明確に伝えることで、審査官や第三者にとって理解しやすい明細書になります。
次回は、USタイプの実施例の書き方(化学・組成物編)を解説します。目に見えない発明をどう記載するか、実務の工夫が問われる領域です。


