特許の実務、解説します!NO.3 ― 特許権の「実体的要件」とは?特許法条文を引きながら解説します

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Last Updated on 2022-03-24 by matsuyama

今回は、特許実務の中でも明細書を作成する際に理解しておきたいこと、そのうち「実体的要件」という言葉について、周辺知識から解説していきたいと思います。

特許の「実体的要件」とは?

特許法29条柱書、第1項第2項および39条などは、いわゆる特許の実体的要件といわれるものです。発明が特許として認められるためには、原則以下の要件を満たしていなければなりません。

特許の実体的要件:
・産業上の利用可能性があること(29条柱書)
・「新規性」があること(29条第1項)
・「進歩性」があること(29条第2項)
・先願の明細書などに記載された発明でないこと(29条の2)
・先願の発明であること(39条)

なぜ特許にするためにこのような要件が存在しているのでしょうか。それは、特許権のもつ性質に理由があります。これを特許権の権利範囲と言います。
特許権の権利範囲は特許法69条で規定しています。

(特許権の効力)
第六十八条 
特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、その特許権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

特許法 第68条

そこでは、「特許発明の実施を専有する」とうたっています。

専有」という言葉を使っているので、特許権者以外の人達(法律上は「第三者」と言います)は、特許発明を原則実施できないことになります。

第三者が特許発明を実施できないということは、とても強い権利です。他人に自分の権利を使わせないということは、他人を排除するということとも言い換えられますよね。そうなると特許権が産業界にもたらす影響はとても大きなものになりますから、何でもかんでも特許権を認めるわけにはいかないのです。いくつかの条件(要件)をクリアしていなければ特許権は付与できないよ、ということになります。


そこで、特許として認められるにはどんな条件(要件)が設けられているのかということについて、特許法では「実体的要件」というのが定められているわけですね。


以上のように法律上は実体的要件の条文は68条から養成されるのですが、明細書作成の実務の上では、70条の下位にあると理解したほうがいいと思います。
あくまでも特許請求の範囲が権利書の役割を果たすので、実体的要件も特許請求の範囲を基準に考えるべきだからです。

そして、特許請求の範囲を補強しておくという観点から明細書を整えることを考えるべきということになると思います。

実体的要件で最も基本となる、特許法29条を深掘り!条文をみていきましょう

特許の実体的要件の必要性とその中身を確認したところで、最も基本となる条文、29条の条文を改めてみていきましょう。

(特許の要件)
第二十九条 
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
  特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
  特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
  特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。

第二十九条の二 
特許出願に係る発明が当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録出願であつて当該特許出願後に第六十六条第三項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した特許公報(以下「特許掲載公報」という。)の発行若しくは出願公開又は実用新案法(昭和三十四年法律第百二十三号)第十四条第三項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した実用新案公報(以下「実用新案掲載公報」という。)の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあつては、同条第一項の外国語書面)に記載された発明又は考案(その発明又は考案をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合におけるその発明又は考案を除く。)と同一であるときは、その発明については、前条第一項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。ただし、当該特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願又は実用新案登録出願の出願人とが同一の者であるときは、この限りでない。

特許法 第29条

さらに、改めて実体的要件の中身をおさらいします。

特許の実体的要件:
・産業上の利用可能性があること(29条柱書)
・「新規性」があること(29条第1項)
・「進歩性」があること(29条第2項)
・先願の明細書などに記載された発明でないこと(29条の2)
・先願の発明であること(39条)

条文を見ていただくと、29条は、1項柱書き、1項各号、2項に分解できることがわかるかと思います。この「新規性」「進歩性」「先願の明細書などに記載された発明でない」の意味について、以下で解説していきますね。

1項柱書き

産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。

特許法 第29条柱書

ここでは特許法上の発明に該当すること、産業上利用できること(現在ではほとんど問題になりません)を要求しています。産業上利用できること、というのは特許法の主目的が「産業の発達に寄与すること」(特許法第1条)であることから来る言葉です。

1項各号

  特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
  特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
  特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明

特許法第29条 第1項各号

ここでは、
「公然知られた発明(でないこと)」:「新規性」のある発明であること、を要求しています。
「新規性」とは、発明が客観的に新しいことです。逆説的で、特許権付与を要求する発明が知られていない)知られる状態になっていない)ことが必要になります。

2項

 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。

特許法第29条 第2項

ここでは、
発明が「進歩性」を有することを要求しています。「進歩性」は、発明が新規であること(第1項)が前提ですが、当業者が用意に考えつかない発明であることを意味します。


当業者とは何者?という感じですが、これはなかなかな知識のスーパーマンを想定しています。新規性があることが前提ですから、古今東西のありとあらゆる文献等等を知っている人と考えてください。その人が容易に考えつかないことが必要です。とても観念的な言葉ですよね。

当業者というワードが背負うスケールが大きいなと感じるのは私だけでしょうか


新規性や進歩性等の実体的特許要件は、実務において拒絶理由通知に対する対応のときに問題となることはもちろんですが、明細書を書くときにもその時に判っている従来技術との関係でストーリーを立てて落とし所を作っておくようにすることが必要です。こちらは先々説明します。

そして、29条の2は「拡大された先願の地位39条は「先願主義」について規定したものです。

これらの詳細については、「先願」について詳しく説明する必要がありますので、機会があれば説明します。

法律的な考え方は青本などで確認していただくとして、実務上は、新規性・進歩性を担保できるようにしておけば、これらは十分に回避可能(少なくとも拒絶理由通知の対応時には)です。


ただ、自分の出願を引用文献として、29条の2や39条が引かれる場合があるので、自分の特許のポートフォリオをきちんと作っておくことは重要です。

ではでは

おまけ:特許実務初心者の方へのおすすめ書籍3冊

「知財実務のツボとコツがゼッタイにわかる本」/秀和システム
知財実務の中でも特許を軸に、初学者からでもわかりやすい一問一答形式で書かれています。実際に扱うケースとして増加傾向のIoTをはじめとした技術分野に関してもわかりやすく書かれている、おすすめの一冊です!

「技術者のための特許実践講座:技術的範囲を最大化し、スムーズに特許を取得するテクニック」/森北出版
こちらは技術者さんにかなりお勧めの一冊です。多くの具体的事例を基に、特許権取得のためのポイントが丁寧に解説されています。書学者から有資格者まで、一冊あるととても勉強になると思います。

「オオカミ特許革命 事業と技術を守る真の戦略」/技術評論社
こちらは専門書としてというよりは、これから知的財産権の世界について知りたい方、特許についての面白さに触れたい方におすすめの一冊です。身近なところでこんな事件があったんだ!など、初学者の方でも知的財産を身近に感じられる本かと思います。

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