特許の実務解説します。 NO.5―特許法37条、36条、17条の2

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Last Updated on 2022-06-08 by matsuyama

これまでの特許実務講座の振り返り

特許実務講座をこれまで数回に分けて掲載してきました。バックナンバーは以下の通りです。

これまでの回で、出願の全体の流れや(NO.1)、明細書を書く上で欠かせない「技術的範囲」(NO.2)について解説してみました。
今回は、実務において特に重要な条文である特許法第37条、第36条、第17条の2についてフォーカスして見ていこうと思います。

特許法第37条、第36条、第17条の2

第三十六条 
特許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。
……
4 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
……
5 第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。
6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
二 特許を受けようとする発明が明確であること。
三 請求項ごとの記載が簡潔であること。
四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。
……

第三十七条 
二以上の発明については、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは、一の願書で特許出願をすることができる。
 

第十七条の二 
特許出願人は、特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる。ただし、第五十条の規定による通知を受けた後は、次に掲げる場合に限り、補正をすることができる。
一 第五十条(第百五十九条第二項(第百七十四条第二項において準用する場合を含む。)及び第百六十三条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定による通知(以下この条において「拒絶理由通知」という。)を最初に受けた場合において、第五十条の規定により指定された期間内にするとき。
二 拒絶理由通知を受けた後第四十八条の七の規定による通知を受けた場合において、同条の規定により指定された期間内にするとき。
三 拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知に係る第五十条の規定により指定された期間内にするとき。
四 拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時にするとき。

……

3 第一項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、誤訳訂正書を提出してする場合を除き、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあつては、同条第八項の規定により明細書、特許請求の範囲及び図面とみなされた同条第二項に規定する外国語書面の翻訳文(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては、翻訳文又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)。第三十四条の二第一項及び第三十四条の三第一項において同じ。)に記載した事項の範囲内においてしなければならない。
4 前項に規定するもののほか、第一項各号に掲げる場合において特許請求の範囲について補正をするときは、その補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と、その補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明とが、第三十七条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものとなるようにしなければならない。
5 前二項に規定するもののほか、第一項第一号、第三号及び第四号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶理由通知と併せて第五十条の二の規定による通知を受けた場合に限る。)において特許請求の範囲についてする補正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一 第三十六条第五項に規定する請求項の削除
二 特許請求の範囲の減縮(第三十六条第五項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)
三 誤記の訂正
四 明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)
……

特許法

特許法第37条

特許法第37条は、いわゆる「単一性」についての規定です
 この規定はもっぱらクレームを作成する際に意識しなければなりません。趣旨は、出願人や他者の利益をうたっていますが、やはり一番大きいのは特許庁の審査の便宜でしょう。特許庁の審査官が審査しやすく、多数の案件を迅速に処理するために単一性の要件が定められていることは理解しておくべきことになります。

 37条を理解するためには、更に特許法施行規則第25条の8を理解する必要があります。その要部は以下のとおりです。


「二以上の発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係にあるかどうかは、これらの発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有しているかどうかで判断することを示す」

特許法施行規則第25条の8

 たとえば、特定の構造を有するバルブ、当該バルブを有するボイラー、及び当該バルブを有する散水装置は、同一の技術的特徴として「特定の構造を有するバルブ」を具備していますので、「単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係」を有しているといえます。

 この他にも同規則同条第2項では、第1項の特別な技術的特徴が、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴であることを規定しています。
 なんのこと?という感じですが、平たく言えば2以上の発明がある場合、各発明は同じ「新規な技術的特徴部分」を有しているのであれば、単一性を満たす、ということになります。
 例えば、「遊星ギアの配置に技術的特徴がある」のであれば、2以上の発明でこの「遊星ギアの配置」が共通であれば「単一性がある」ということになります。

特許法第36条

36条は記載要件を規定しています
特に重要なのは、第4項、第6項第1号、第6項第2号です。
 4項は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「経済産業省令で定めるところにより、いわゆる当業者がその発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に」記載しなければならない旨規定しています。いわゆる実施可能要件を規定しています。
 具体的には、特許法施行規則第24条の2(委任省令)で「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載する」と規定しています。
 要は、物なら作れるように、方法なら使えるように、記載しろということです。具体的には第1段階で説明しますが、「作れる」というのは、作り方はもちろん、何が出来上がるのかを明確にすることも含みます。
 6項1号は、いわゆるサポート要件を規定します。すなわち、特許請求の範囲に記載の発明は明細書中に記載されたものでなければならないことを規定しています。
 請求項に記載した発明を本文中に記載して説明しておかないといけないということです。装置やIT系の発明では、言葉さえ統一させておけばそんなに外れることはないのですが、化学は難しい問題があります。これについても第1段階以降に説明します。

特許法第17条の2

 17条の2は、補正について規定しています。
 特に重要なのは3項、4項及び5項ですが、ここでは3項を理解しておいてください。
 3項は、いわゆる新規事項追加禁止の規定です。
 基本的な考え方について審査基準では、「明確に記載のある事項の他、明細書の記載から当業者にとって「自明の事項」も新規事項には当たらない」、すなわち、補正可能であるとしています。
 何をもって自明というか、問題となりますが、意味の記載がない文言に基づいて、その意味する内容に補正した場合、その意味が当業者にとって当然理解できるものであれば、新規事項ではないということになります。ただ、普通はこの必要がないように記載するべきですし、そうなると思いますが…人間のやることですから、間違った記載をしてしまうこともあり、そんなときにこの解釈は助かります(汗)。

 この規定を考えると、発明に関連する事項は明細書中に記載しておいた方がいいということになります。ただ、なんでもかんでも書くのはあまりいいことではありません。何事もバランスです。

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