裁判例紹介:「不正競争行為」「著作権侵害」

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Last Updated on 2019-07-22 by matsuyama

こんにちは。弁理士の松山裕一郎です。今回は、最近争われた裁判例から、「不正競争行為」そして「著作権侵害」がキーワードとなったものをご紹介します。
※このコーナーでは、各裁判例の中で知的財産にまつわる部分を重要争点としてピックアップしてご紹介しています。詳細は記事末尾記載のURLよりご覧ください。

平成29年 不正競争行為差止等請求事件

事案の概要

原告は、被告らが販売した「三角形のビーズを敷き詰めるように配置することばどからなる鞄」の形態が、原告の署名または周知の商品等表示であること、また被告による上記販売行為が原告らの著作権(複製権または翻案権)を侵害するなどと主張した。これにより原告は被告に対し①不正競争防止法3条1項、2項又は著作権法112条1項、2項に基づき、上記商品の製造・販売等の差し止め及び商品の廃棄を、②不正競争防止法4条、5条1項又は民法709条、著作権法114条1項に基づき遅延損害金の請求を行った。

争点

1)不正競争行為の有無

  •  ア:原告商品の形態は商品等表示に該当するか(争点1)
  •  イ:原告商品の形態は周知ないし著名か(争点2)
  •  ウ:被告商品の形態は原告商品の形態と類似して混同のおそれがあるか(争点3)

2)著作権侵害の有無

  •  エ:原告商品に著作性が認められるか(争点4)
  •  オ:原告らが原告商品の著作権者であるか(争点5)
  •  カ:著作権(複製権又は翻案権)侵害の可否(争点6)

判決とその理由

1)争点1、2、3について(不正競争行為の有無)
「不正競争防止法2条1項1号は,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止するものであるところ,商品の形態は,通常,商品の出所を表示する目的を有するものではない。しかし,①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は宣伝広告や販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている(周知性)場合には,商品の形態自体が,一定の出所を表示するものとして,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当することがあるといえる。(中略)本件において,本件特徴を含む本件形態を形態の特別顕著性や周知性,混同の有無を検討するに当たり商品の形態とすることが相当である。」

―ア(争点1)
結論:不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当する
理由:「原告商品の形態は、従来の女性用の鞄等の形態とは明らかに異なる特徴を有していたといえ」、顕著な特徴(特別顕著性)を持つといえる。また、原告商品は「14年余りにわたって継続的に販売されたこと」(長期間の独占的な使用)や各種雑誌、新聞で複数回にわたって取り上げられ、「販売実績の拡大」を実現していたこと(宣伝広告や販売実績等)から、需要者において周知のものであるといえる。よって、原告商品には特別顕著性・周知性がともに認められる。

―イ(争点2)
結論:原告商品は原告の出どころを示すものとして全国の需要者に広く認識されていた。
理由:前述のとおり。
―ウ(争点3)
結論:原告商品の形態と被告商品の形態は,全体として類似し、混同のおそれがあるといえる。
理由:インターネット上の短文投稿サイトTwitterで、被告商品を原告商品と誤認した複数の氏名不詳者による投稿がみられた。原告商品と被告商品とで商品を構成する部品には相違があるものの、需要者が注意深く観察しなければその相違がわからないものである。すると、インターネット上において被告商品を原告商品と誤認した投稿が複数存在する。

2)争点4、5、6について(著作権侵害の有無)
―エ~カ:「著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(同法2条1項1号)と規定しているところ,その定義や著作権法の目的(同法1条)等に照らし,実用目的で工業的に製作された製品について,その製品を実用目的で使用するためのものといえる特徴から離れ,その特徴とは別に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できないものは,「思想又は感情を創作的に表現した美術の著作物」ということはできず著作物として保護されないが,上記特徴とは別に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できる場合には,美術の著作物として保護される場合があると解される。」
これを原告商品についてみるに、「原告商品における荷物の形状に応じてピースの境界部分が折れ曲がることによってさまざまな角度が付き,鞄の外観が変形する程度に照らせば,機能的にはその変化等は物品を持ち運ぶために鞄が変形しているといえる範囲の変化であるといえる。上記の特徴は,著作物性を判断するに当たっては,実用目的で使用するためのものといえる特徴の範囲内というべきものであり,原告商品において,実用目的で使用するための特徴から離れ,その特徴とは別に美的鑑賞の対象となり得る美的構成を備えた部分を把握することはできないとするのが相当」である。よって原告商品は著作権の対象である著作物ということができず、著作権侵害があるとはいえない。

―(争点4)
結論:著作物ではない。
理由:原告商品は、鞄の外観が変形するという特徴を有するものではあるが、実用目的で使用するための特徴であって、美的鑑賞の対象となり得る美的構成を備えてはいない。
―(争点5)及び(争点6)
結論:著作権者ではなく、且つ著作権侵害はない
理由:争点4の結論


小括)以上によれば、「原告は、不正競争防止法4条に基づく損害賠償と、これに対する不法行為後の日である訴状送達の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

コメント

不正競争と著作権侵害とを同時に争った事案です。本件のように、不正競争と著作権侵害とで異なる結論が出ることが確認できます。当然といえば当然ですが、商品等表示として認められるためには従来のものとは異なる特徴的な部分が必要で、この特徴的な部分に創作性が認められるというのは創造に難くないところです。しかし、この創作性が、思想感情の表現物としての創作であるか否かは別問題ということでしょう。
実務的には、本件のように考えられる手立てはすべて考慮して自分のビジネスを守るという姿勢が重要なのではないかと思います。


今回は、「不正競争」「著作権侵害」にまつわる裁判例をご紹介しました。



原文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/794/088794_hanrei.pdf


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